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ライフセーバー
海水パンツ一丁、赤銅色の胸を張り ザッザッザッと(ややガニマタで)浜を行く。 「河童」の異名をとる泳ぎの名人 御年80を過ぎている。 太平洋戦争中は鮭の密猟で飢えをしのぎ あとはひたすら、地元の海水浴場の安全を守り続けて…つづきを読む
2013-02-01 -
漫画原作者
「当時、松本清張と並ぶ稿料をもらっていた」 とは、昭和40年代、チャンバラ、スポ根、学園もの…と あらゆる漫画の原作を書きまくった人の証言。 ウケる物語が湯水のように湧き出る才能とは どれほど面白いものなんだろうと想像す…つづきを読む
2013-01-31 -
CGプロデューサー
山道を疾走する自動車、反射光を宿す口紅、 チョコレートの箱、お茶のペットボトル…。 いま、コマーシャル映像で見る商品のほとんどは コンピュータグラフィックス(CG)だ。 達人は、窓のない部屋で何日も作業に没頭する。 「C…つづきを読む
2013-01-30 -
お笑い芸人
売れない頃、売れない若手ばかり集まって 毎晩のように安い酒を飲んでいた。 夢を語り合ったり、先輩の芸にケチをつけたり。 「悪くない、楽しい酒だった」と言う。 でも、あるとき気づいた。 これはモテない奴らでつるんでいる現象…つづきを読む
2013-01-29 -
百貨店店員
老舗百貨店にお勤めの、きちんと女子。 好印象を旨とした髪型とメイク、自然体のほほえみ。 だが驚くべきは、ほほえみの奥に潜む 女スパイのような深謀であった。 買ってくださるお客様ではなく 「見てるだけ」という方にいかに目を…つづきを読む
2013-01-28 -
板金工
「この前な、目ぇかけてる若い職人がそこそこ大きな仕事をとった言うて相談にきてん。見積もり見せてみぃ言うたら、ふたりで4日かかる見積もりになっててん。『お前、こんなもん8人工(にんく)の仕事やあらへんで。こうしてこうしてこ…つづきを読む
2013-01-25 -
キャディ
どんな一流プレイヤーでも、迷う時あんだよね。 当然、俺たちキャディに意見を求めてくるわけ。 そんとき 「俺はこう思います」 と言っちゃあ、だめ。 と漫画雑誌の編集者と同じようなことを言うのは、 プロゴルファー専属のキャデ…つづきを読む
2013-01-24 -
漫画雑誌の編集者
困った…、アイデアが出ない…。 刻一刻と迫る締め切り。 絶体絶命! という漫画家と顔をつきあわせること数十年、 漫画雑誌のベテラン編集者が編み出したのは 「ひとりごと作戦」だった。 漫画家っていう生き物はね、 喉から手が…つづきを読む
2013-01-23 -
毛糸屋
まったくへそ曲がりなオヤジであった。 太さが均一でない毛糸は不良品だとされていた時代に、 あえて太さがまちまちの毛糸をつくる。 ファッション界でモノトーンが流行ったら、 わざと真っ赤な毛糸を売り出す。 「人のゆく裏に道あ…つづきを読む
2013-01-22 -
音声マン
監督とカメラマンが縦横無尽に暴れ回るなか、 音声さんはいつも後ろに控えて 黙々と自分の仕事をする。 森に響くオオカミの遠吠え。 バオバブの幹を流れる水の音。 恥ずかしそうに歌う少女の声。 世界中の音を、落ち着いて確実に録…つづきを読む
2013-01-21 -
ヴィオラ奏者
「どこのクラスにも、なんとなく華やかで、 自己主張が強いタイプっていますよね。 そういう子がヴァイオリンに向いてるんです。 うちの妹もヴァイオリンやってるけど、 まさにそのタイプだなー。ふふ」 自身も3歳からヴァイオリン…つづきを読む
2013-01-18 -
左官
左官職人とお好み焼きを食べにいく。 「生ビール、豚玉と焼きそば、マヨネーズ別盛りで」 迷うことなく、王道のオーダー。 職人は、メシ選びに時間をかけない生き物である。 熱くなった鉄板に油を垂らし、ヘラで広げる… ハッ! そ…つづきを読む
2013-01-17 -
野球中継のスイッチャー
構えるバッター、リードする一塁ランナー、 ベンチの監督、スタンドの大観衆、 ピッチャーの顔アップ、バッターの顔アップ…… 十数台のカメラから送られてくる映像を瞬時に切り替えて、 戦況をわかりやすく伝えるのがスイッチャー。…つづきを読む
2013-01-16 -
照明デザイナー
「俺にとって最高の褒め言葉は」 と、その人は爽やかに言った。 「『そうくるとは思わなかった』ってやつ」 光の当て方で建造物の印象はまったく変わってしまう。 毎回大きなプレッシャーがかかる。 でも最後は開き直るのだ、と笑っ…つづきを読む
2013-01-15 -
ピアノ調律師
グランドピアノを眺めていると つくづくこれは神様の持ち物だな、と思えてくる。 操るピアニストは神の分身。 調律師は――さしずめ巫女のような存在か。 ハンマーをあと0.5ミリ回すか、0.3で止めておくか。 鍵盤の下に紙を2…つづきを読む
2013-01-14 -
占い師
運命の人……。 とはいつ出会えるのか? あの人がそうなのか? と思ったけどやっぱり違うのか? 1000通りの恋の事情を受け止めて タロットのお告げに耳をすます占い師。 「運命の人かどうか、わかりますか」 と聞いてみた。 …つづきを読む
2013-01-11 -
丹頂鶴の飼育員
ツル語が話せるようになったのは偶然ではない。 「あーーー!」 「あいっ!」 「あうううう!」 とアイウエオ順に音を組み合わせて、話しかけていった。 空に向かって。 出せる限りの大声で。 「それしかねえべさ、ツルに聞くしか…つづきを読む
2013-01-10 -
料理人
この人の料理を口にしたとき 体が宙に浮くかと思った。 美味しいという次元を超えている。 達人、笑って曰く 「旬のものを食べたから、 血が躍ったんですよ。 生き物の本能です」 日本料理の頂点にのぼりつめて 次は海外で勝…つづきを読む
2013-01-09 -
映画評論家
明るい色の口紅を引いた口が 笑うと気持ちいいほど大きくなる。 真顔に戻っても、口の端に笑顔の余韻。 この人と友だちになって メキシコ料理かなんかを食べに行ったら 楽しいだろうなーという感じ。 そのとき彼女はピンクのサンダ…つづきを読む
2013-01-08 -
船長
外国航路の船長とお茶を飲む。 バミューダトライアングルの犯人は巨大な海藻だ。 紅海を通過するときは国旗を揚げないと撃たれる。 コロンブスのみやげ話に耳を傾ける女王陛下みたいな気分で ふむふむと聞いていたら、こんな話まで。…つづきを読む
2013-01-07 -
オリンピック選手
「スポーツをやっていていいのは、二度死ねること」 と青年は言った。 競技人生が終わるときが一度目の死。 そのあと始まる二度目の人生は、 「一度、死を経験した者として生きられると思う」 ロンドン五輪では燃え尽きず 次のオリ…つづきを読む
2013-01-04 -
落語家
真打ちになった意気込みを聞いても 「まぁ、ぼちぼちやります」 なんて、気のない返事。 「ぐうたらで、いい加減なもんで」 なんだか落語の登場人物みたい。 「新しい噺は、ある程度おぼえたら高座にかけちゃう。 もう、出たとこ勝…つづきを読む
2013-01-03 -
法廷画家
「なんだか最近ね」 とのんびり言う。 「顔を見たら、有罪か無罪かわかるように なっちゃいましてね」 え! 法廷画家。 画用紙を携えて裁判所に出かけ、被告人の様子を描く。 テレビ局の報道部と契約していて、 世間を騒がせた悪…つづきを読む
2013-01-02 -
塗装工
北関東の空は褪せた色をして、 その人の手も白くかさついていた。 「一人前になるのに、こんなに時間かかるやつはいねえ」 と言われ続けて、実際、下積み期間は工場でいちばん長かった。 親方にしょっちゅう叱られて、気持ちはどんど…つづきを読む
2013-01-01