いつも何かを調べてる

和歌山ゲラゲラ紀行《後編》

2012-01-12

(前回よりつづく)

おっちゃん、30年前は和歌山県下ナンバーワン高校の生徒会長だったという。
やたらと顔が広い。声もでかい。
県庁でもホテルでも病院でも、ドカドカ入っていく。
と、必ず知り合いがいる。
「取材の子ぉ、来とんねん。ひとつ頼むわー」
おっちゃんの手引きで、地元取材はすいすいと進んでいった。
ずっとつきあってくれるのはありがたいが、平日である。
仕事しなくて大丈夫なんだろうか。
「ワシ、自営業やからかめへん。
わざわざ東京から来てくれとんのに仕事なんかしとれんがな。
それよりなー、クエ食べたことあるか?
和歌山ラーメンは? ない? そりゃ、あかんでー」
と、地元のおいしい店にも連れていってくれたっけ。
移動の車中も食事のあいだも、弾丸トークはやまない。
学生時代のいたずら、愛妻との慣れ初め、「のど自慢」出場の顛末…
和歌山弁全開で臨場感たっぷりに語るエピソードが
いちいちおもしろく、もう、笑いっぱなし。
仕事で来ていることを、うっかり忘れそうになる。

夜はおっちゃん行きつけの店で宴会。
どういう文脈だったか忘れたが「たいそがり」という言葉が出た。
「大層がり」と書くのであろう、大げさな人のことを言うらしい。
「東京で使わんか? “たいそがり”って言葉」
「うーん…使いませんねぇ」
「ほんだら、覚えて帰ったらええ」
「はい」
「こうやって覚えんのや。いいか?
あり、をり、はべり、たいそがり。
言うてみー」
「あり、をり、はべり、たいそがり」
「わはは!」
わたしたちはその晩、延々とそのフレーズを繰り返した。
どちらかが「あり、をり、はべり…」と言うと
もうひとりが「たいそがり!」と和す。
うーむ、今こうして書くと、変なテンションすぎる…。

おっちゃんの「ボロい国産車」を駆っての取材旅は丸々二日続いた。
最後にまた、和歌山駅まで送ってもらう。
電車の時間まで、まだ30分くらいあった。
「最後にマクドでコーヒー飲もか」
と駅前のマクドナルドに入る。
夕暮れのロータリーを見下ろす2階の窓際席。
この駅から始まった濃い旅が、終わろうとしていた。
なんだか、和歌山を離れがたい気持ちになる。
いや、この笑わせ続けてくれたおっちゃんと別れがたいのである。
しみじみするわたしの横でおっちゃんは言う。
「あり、をり、はべり、たいそがり。
これを忘れたらあかんで」
ふはは。

あれから2年、おっちゃんとの縁は続いている。
取材の翌月、ロケ隊が和歌山を訪ねる際にもついていった。
基本的にリサーチャーは、ロケには同行しないのだが
「そんだけ仲良くなったなら、もう一度行ってきていいよ」と
プロデューサーの粋な計らいであった。
上京したおっちゃんが東京の友人たちを集めた
盛大な食事会に招いてもらったこともある。
でも。
あの二日間のゲラゲラは、あの二日間限定のものなのだ。
仕事仲間や大勢の人がいる場面でおっちゃんと会っても
あの二日間ほど大笑いすることは、ない。
やはりあれは、ひとり取材の味だったんだなぁ。

和歌山から届いたみかん、おいしくいただきました。

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