2年前に取材でお世話になったおっちゃんからである。
お礼の電話をすると、おそらく着信画面でわたしとわかったのだろう。
電話に出るなり「ヨボセヨー!!」だって。
(ヨボセヨは韓国語の「もしもし」)
必然性のまったくないギャグを元気に飛ばすところ、変わってないなぁ。
地方のひとり取材には、独特の味がある。
見知らぬ土地、見知らぬ人の中に単身で斬り込んでいくドキドキ。
交通費と時間をかけて行くのに、手ぶらで帰れないというプレッシャー。
(ディレクターと一緒なら、万が一首尾よくいかなくても
「仕方ない」「ま、こういうこともあるさ」
なーんて傷が舐め合えるけど、ひとりだと逃げ場がない)
でも、その心細さが、いいのである。
取材相手を警戒させないから、仲良くなれる。
身軽だから、予想外の展開にも対応しやすい。
ひとりの方がオモシロイ。ひとりの方がウマクイク。
…と、地方のひとり取材に行くときは自己暗示をかける。
和歌山のおっちゃんの、あの強烈な笑顔を思い浮かべながら。
その仕事は、サッカーW杯イヤーだった2010年初頭に降ってきた。
かつて、日韓W杯が開催されたとき
デンマーク代表チームが和歌山でキャンプを張った。
そのときの和歌山市民とデンマーク選手との交流エピソードを
掘り返す…というのが、わたしに課せられたミッション。
すでに日韓大会から8年が過ぎていた。
刑事の聞き込み調査のような、地べたを這うリサーチ物件である。
ひとりで和歌山へ旅立ったわたしを待ち受けていたのが
くだんのおっちゃんであった。
02年当時、和歌山市民を募ってデンマーク応援団を結成し、
その団長として大暴れしたという、地元の名物おじさん。
この人を手がかりに関係者を洗おうという作戦である。
事前に電話で取材日を調整した際に
「駅まで迎えに行ったるでー!」
と受話器からこぼれんばかりの大声で言ってくれた。
「ワシのベンツを駅に横付けしたるわ!
わはは、ベンツは嘘や。ボロい国産車や」
といきなりの弾丸トーク。
「あの、駅のどっち側に出たらいいでしょう?」
「改札におらぁ。すぐにわかるよう旗振っとるで!」
「旗…」
冗談かと思ってたら、ほんとに改札口の真正面で
デンマークの旗を振ってる人がいるではないか。
ぶはは!のっけから大爆笑。
そこから、不思議なふたり旅が始まったのである。
(つづく)