久しぶりにナチスもの。
単純にナチスのリサーチはおもしろい。
人間の怖さ全開で、なぜか惹かれる。
指導者の狡さも、民衆のうっとり感も、他人事とは思えない。
しかし今回は大問題に直面したのである。
文献もいっぱいあるし、研究者もいっぱいいるし、
ナチスは、やり尽くされた感のあるテーマ。
それをどう「新しく」見せるか。
「新しい切り口はないか?」と会議であーだこーだ話しているうちに、
とんでもない「切り口」が出てきてしまったのだ。
「ヒトラーは悪くなかった、という方向性で番組を作れないか?」
うーん!たしかに新しい!
黒幕は別にいて、ヒトラーは操られていただけ。
ヒトラーもまた、被害者だった。
実はいい人だったヒトラー。
…みたいな切り口でリサーチしてこいという指令が下ったのである。
それで担当ディレクターとふたり、いそいそと大学教授のもとへ取材に行ってきた。
が、先生の話を聞けば聞くほど、やっぱりヒトラーはいい人なわけないんであった。
「おもしろければなんでもあり」のテレビとは言え、
差別主義者を肯定するようなことを公共の電波で流すわけにはいかない。
もし総合演出がどうしても前述の角度でヒトラーを切り取るというのなら、
わたしたちは、辞めさせてもらおう。
たとえ失業しても、いいや、命を奪われたとて、
ヒトラー礼賛にくみすることはできん!
そう気炎をあげながら、暗い大学構内を歩いた。
結局、わたしたちは途中降板することなく、無事にナチスの番組をつくった。
ヒトラーを肯定せずに済んだわけだ。
あれから何年も経つけれど、あの夜の決意の味はなんとなく胸に残っている。
ま、考えてみれば。
ヒトラー肯定なんて、局やスポンサーが許すわけないんだけどさ。
山下 | 2014.06.22 7:44
ヒトラーみたいに挫折を経験したあと過激な方向に進む人って多いようだね。