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画商
煙草の箱をトントンと叩いて1本取り出す。 「名画って言われてる絵の、何割がホンモノなんだろうねぇ」 マッチを擦って、炎を掌で囲うようにして、 「贋作と知ってて取引したら犯罪だけど」 くわえ煙草の口で、ことさら不明瞭に言う…つづきを読む
2013-06-24 -
車両部(ロケ車ドライバー)
京都駅にロケ車を転がしてきたのは 小柄でチョビひげのおっちゃんだった。 畑の撮影をするために車を走らせていると急に雨が降り出した。 それも、けっこう強い雨。 みんなで「あちゃちゃ」と言いながらも、 予定どおり撮影しようと…つづきを読む
2013-06-21 -
力士
お相撲さんが自分より年下だという事実を、つい忘れる。 子どもの頃から相撲好きなせいだと思っていた。 見上げるほど大きな体と、昔風の服と髪型のせいだとも思っていた。 ひんやりと無人の土俵、びん付け油の匂い、奥から若い衆の笑…つづきを読む
2013-06-20 -
靴磨き
木枯らしの朝も、風のない熱帯夜も ひたすら駅前の一角に座り続ける「名人」。 彼の前には、いつもサラリーマンの行列ができている。 俺さ、ずっと工事現場の作業員してたのさ。 その頃から、安全靴を長持ちさせようと思って 自分な…つづきを読む
2013-06-19 -
フードコーディネーター
「今日はスタジオに特製カレーをご用意しましたー!」 なんて展開のテレビ番組で、 美しく盛ったカレーを出してくれるのが フードコーディネーターさんである。 「出して!」って言われた瞬間に 最高においしい状態で出せるように …つづきを読む
2013-06-18 -
建築業の親方
この前、クレジットカードを不正利用されて… という話を何気なくしたら、親方の眉がピクリと動いた。 「クレジットカードなんてただのプラスチックや。 いざというときに、なんの役にも立たん。 人の上に立つもんは現金を持たにゃ。…つづきを読む
2013-06-17 -
気象予報士
取材の終盤、彼がテーブルに広げた 古く美しいファイルに目が釘付けになった。 小学生の頃に描いたという“架空の”天気予報図。 気圧配置を想像して天気図を作り、 そこから予想雨量まで算出していたという。 しかも毎日! 「まさ…つづきを読む
2013-04-24 -
メーカーのクレーム対応係
客に怒鳴られて、頭をペコペコ下げる仕事。 自分を殺すことができる人じゃないと務まらないのでは …という予想は見事に裏切られた。 「わたしね、喧嘩するなら勝ちにいきますよ」 と、いたずらっ子の目で好戦的なことを言う。 「舐…つづきを読む
2013-04-23 -
ゲーム作家
ヒットゲームを次々と生み出す発想力は どこから来るのかと尋ねたら 「一生懸命、昔を思い出す」という答え。 「よく『子ども心を持ち続けてるんですね』なんて 言われるんだけど、そんなことないんです。 普段は大人として生きてる…つづきを読む
2013-04-22 -
プロボクサー
すげえ貧しかったとか差別されたとか、 劇的な動機がないと強くなれない感じするじゃん、ボクシングって。 だから俺、まあまあ勝てるようになってからも 「最後はハングリーさで負けるかもな」ってのがずっとあって。 でも、あるとき…つづきを読む
2013-04-18 -
かつら師
畳敷きの作業場に、父と息子。 時代劇のかつらをつくっている。 息子は一日中、あれやこれや威勢よくしゃべり 父のほうはあまり、いやほとんど、しゃべらない。 かつらのことを教えて欲しいと頼むと、 親子は一瞬、顔を見合わせ、 …つづきを読む
2013-04-12 -
電子書籍制作者
昔から、母親にもカノジョにもよく言われた。 「あんた、ほんとによく寝るね」って。 ゲームとか音楽の仕事をしていた頃は それなりに忙しかったけど 休日になるとひたすら寝てたなぁ。 数年前、いよいよ日本にも電子書籍が普及する…つづきを読む
2013-04-11 -
絵画修復師
無音のアトリエでひとり。 イーゼルに立てかけた絵と向き合う。 手には筆をもって。 「そのとき、個性を殺すの。 描くって意識を絶対に持たないように気をつけるの。 ボクは絵の作者ではないから」 あくまで、汚れをとる、欠損部を…つづきを読む
2013-04-10 -
太極拳の選手
世界大会に出るとね、 ぜーったい!!中国人には勝てない。 子どもの頃からの環境も鍛え方も全然ちがうもん。 成績がよければ国から援助も出るしさ。 あーあ、あたしも中国に生まれたかったよ。 って、ずーっと思ってた。 あるとき…つづきを読む
2013-04-09 -
釣り番組ディレクター
テレビ業界の人々は、ダンドリとノリが大好物。 ロケ現場でも飲み会でも 「ダンドリがいいねぇ!」 「ノリがいいねぇ!」 が二大褒め言葉といっていいだろう。 さて、あるところに ダンドリ下手でノリの悪いディレクターがいた。 …つづきを読む
2013-04-08 -
動物園の飼育係
子どもの頃、飼っていた猫や鳥が死ぬと 一日中めそめそ泣いた。 中学生になっても、高校生になっても 近所の犬が死んでも、泣いた。 「そんなに悲しいなら、もう動物飼うのやめ、 って、いっつもオカンに言われてなぁ」 やめるどこ…つづきを読む
2013-04-05 -
振付師
アイドルグループに振りを付けるとき、 「うまく踊れない」「リズム感がないんです」 って訴えてくる子が必ずいるのね。 私は「またまたぁ、隠しちゃって」って言う。 だって、リズム感は誰でも持っているのよ。 心臓の鼓動がある限…つづきを読む
2013-04-04 -
庭師
——もともと、お花屋さんだった。 ふつう、花屋に頼むのは 花束か、せいぜいウィンドウに飾るブーケだろ? あるとき、お客さんがやってきて 「花壇つくれる?」 って聞くんだよ。 俺、もちろんつくったことないよ。 でも、もちろ…つづきを読む
2013-04-03 -
ヨットマン
たったひとりで7つの海を航海してきた男は、 全身からタフな空気を漂わせていた。 それでいて、口をついた言葉が意外。 「人間、我慢しちゃダメです」 どんなに心身を鍛えても、我慢は長く続かない。 我慢したら、きっと逃げたくな…つづきを読む
2013-04-02 -
プロ野球私設応援団団長
某球団が関東以北で試合をするとき 外野応援席には必ずこの人がいる。 堅気なのだが、見た目は少し、怖い。 選手の応援歌を作詞作曲し、 トランペット奏者を統率し、 白い手袋で観客の拍手を促す。 だが、任務はそれだけではない。…つづきを読む
2013-04-01 -
書家
日頃モノクロ・無音の世界に身を置く反動だろうか。 酔うほどに陽気にはしゃぐ。 大言壮語と、やや下品な宴会芸を得意とする。 そうして結局は、書のはなしに戻る。 「臨書してるとねぇ、 この字を書いた人はこんな性格だったんだな…つづきを読む
2013-03-29 -
美容外科の看護師
あたし、小学校の頃、「保健がかり」で。 クラスメイトがカッターで指を切ったりすると 保健室に連れて行って手当するのが ものすごく好きだったの。 中学生になると、女の子って友だちの家に集まって、 髪の毛をブローし合ったり、…つづきを読む
2013-03-28 -
新興出版社の社長
私鉄沿線、木造の一軒家、小鳥のさえずり。 ぜんぜん出版社っぽくないその場所で、 青年ははにかんで言った。 「決めてることは、いっこだけ。 それっぽいことをしないってことです」 こんな時代に出版社を立ち上げた。 既存のうま…つづきを読む
2013-03-27 -
プロゴルファー
ずいぶん年をとってからプロゴルファーを目指した。 「嫁はん呆れとったけど、ようよう説得してな、 一回だけならプロ試験を受けてもいいってなって。 よっしゃ、それで駄目なら諦めるって俺、約束してん」 その大事なプロ試験で、ボ…つづきを読む
2013-03-26 -
特機部
「自分で言うのもなんだけど 雨降らしはけっこうなワザでな」 ハリウッドではシャワーみたいな機械を使うが、 日本映画の特機部さんは「親指1本」で勝負。 ホースの先を押さえる親指の力加減で 小雨から土砂降りまでつくり分ける。…つづきを読む
2013-03-25 -
牛飼い
「酪農って頭使うんだよー。 牛の性格を読んで、それぞれに合わせたやり方を考えてさ」 とは、脱サラして牛飼いになった人の言。 100頭以上の牛のタイプを2週間で憶えたという。 「オゥ!おはよう!!」と大声で呼びかけて あ、…つづきを読む
2013-03-22 -
映画プロデューサー
「脚本をつくって、スタッフや役者を決めて、 ロケ地を探して、撮影では必ずトラブルが起こって、 監督と喧嘩しながら編集して…。 映画を1本つくるのは、子どもを育てるようなものね」 と彼女は言った。 「わたしは子どもがいない…つづきを読む
2013-03-21 -
グルメライター
食とはまったく関係ない仕事をしていた。 何十年も。 年間500軒、外食する(うち100軒は新規開拓)。 味のポイントを手帳にメモる。 という「あくまでも趣味」を続けているうちに いつしか膨大なデータベースができた。 友人…つづきを読む
2013-03-20 -
同時通訳
言葉を、それも口で扱う仕事人の常として饒舌である。 しっとりとして可愛らしい声。 「誤訳が怖いの。 その気持ちはもう、ずっとぬぐえない。 人が、それもベテランの通訳が、 大事な場面で訳し間違えた話を 聞くだけでドキドキし…つづきを読む
2013-03-19 -
スポーツ写真家
「1秒間に20枚連写できるデジカメ、か… 今の人は恵まれておりますなぁ」 と言う老カメラマンの口ぶりにはしかし、 俺たちの頃はたいへんだった、という 苦労自慢の雰囲気はまったくない。 フリーでスポーツ写真を撮り始めた頃、…つづきを読む
2013-03-18