いつも何かを調べてる

西太后に肝を冷やした話《終幕》

2011-11-08
(前回よりつづく)

以後3日ほど、ほかの仕事を完全に打ち捨てて
西太后についてのみ必死になって調べまわった。
中国語の先生や横浜在住の中国通に問い合わせても、
「噂では聞いたことあるけど、出典はわからん」との返事。
だんだん、最悪の事態が頭をよぎる。
もしかして「資料が見つからない」んじゃなくて「話自体が嘘」なのでは!?

こうなったら腹を切る覚悟でディレクターに正直に言うしかない。
嗚呼、短いリサーチャー人生であった。
よくしてくれた仲間たちよ、さらばでござる。

完全に厭世的な気持ちになって
トボトボと街を歩いていると1軒の本屋。
ふらりと立ち寄り、日頃の習慣でぼんやりと新書棚を眺める。
お!
中公新書の「今月の新刊」に『西太后』という本を発見。
番組のリサーチ時には、この本は見かけなかったから
まさに出版されたてホヤホヤの新刊のようだ。
わたしは憑かれたようにページを繰った。
光緒帝や伊藤博文が登場するお堅い政治史が延々と語られていて…
ついに最後のページまで「真珠ばなし」は出てこなかった。
やんぬるかな。

しかし、奇跡はいつもロスタイムに起こるのである!
なんと「あとがき」に
「真珠の粉の化粧品は、西太后の贅沢が起源で
民間に伝わったものだとされる」
と書かれているではないか。
ブラボー、中公新書!
わたしは天にましますリサーチの神様に
合掌瞑目したのであった。

いま手元に、この時の中公新書がある。
奥付を見ると、初版は2005年9月だ。
首の皮一枚でリサーチ稼業をやめずに済んで早6年。
よかったなぁ。

それにつけても、西太后とは、げに恐ろしき女帝であった。
ふぅー、肝を冷やしたぜ。

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